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良い旅を

旅と珈琲、読書を偏愛する者。

東芝はなぜ間違った行動に出たのか、行動学を視点に考える

アダムクラント著の「与える人こそ成功する時代」に、組織行動学の面白い研究例があったので備忘録がてら紹介したい。

GIVE & TAKE 「与える人」こそ成功する時代 (単行本)

GIVE & TAKE 「与える人」こそ成功する時代 (単行本)

 

 カリフォルニア大バークリー校のバリーストー氏の研究テーマは「人はなぜ間違った決断をするのか」である。
その答えは、

失敗した行動方針に対する「立場固定」の法則というものだ。
要は最初の決断を正当化しようとする心理が人間には働いてしまうのだ。
過去の決断を正当化するために、少し損失が出ても事業や投資を継続、増資してしまう行為はよく見かける。個人投資家もほれた銘柄にナンピンしてしまう。これは私自身のことであるけど(笑)
経済学者はこれを、「埋没費用の誤謬」という概念を使って説明する。
将来の投資の価値を評価する際に、過去に行った投資にこだわり過ぎてしまうという意味だ。
そして、この行動要因を大きく3つに分けられる。
1つめ
「後悔の予測」:この投資をここで打ち切れば、将来後悔するのではないだろうかという思いが生じること

2つめ

「計画の完了」:この投資を続ければ、投資初期の計画が完了できるという思惑が働くこと

最後に3つめ。そして、これが最も大きな理由である。
「エゴの防御」:この投資を成功させれば、私が正しかったことを自分自身にも他人にも認めさせることができるという感情が根底にあるのだ。
東芝さんが原発事業で大きな損失を出してしまった理由は、まさに「埋没費用の誤謬」そのものなんじゃなかろうか。
しかし、自分の身を守ろうと、引くに引けない状況だったことは容易に想像がつく。
原発事業を断念すれば、会社の財政状態はよくなるかもしれないが、その意思決定をした経営陣はかなりの個人的損失をこうむることになるわけだ。
10万人を抱える会社全体が傾くより、自分一人の保身が大事だったとも言える。

ちなみに、今読んでいる「Give & Take 与える人こそ成功する時代」では、人をギバーとテイカー、そしてその中間のマッチャーに分類し、これからの時代は進んで失敗を認め利他的に行動するギバーが成功すると書かれている。
テイカーであれば、自分のプライドとメンツを保つためにイニシャルコスト回収に必死になる。
ギバーであれば、全体を見て最適な選択を見つけ柔軟に意思決定をする。
この本を読んで、東芝の経営陣がギバーであれば、これほどの大惨事に至らなかったのではないかと思う。反面、そもそもギバーが大企業のトップになる仕組みなど、減点方式で評価が下される日本社会には存在しないのかなと思った次第である。

 

余談:
米国で書かれた社会科学の本を読むことは非常に面白い。
研究内容そのものというより、仮説を実証するための実験が非常に大規模だからだ。
今日紹介した埋没費用の誤謬の概念を実証するために、MBAのドラフト順別のその後のキャリア動向を調査している。
その調査結果によると、ドラフト下位選手のほうがその後の投資額も選手寿命も短かったそうだ。もちろんこれは、ドラフト上位選手のほうが能力が相対的に高いことも一因ではある。しかしそれ以上に、球団には、最初に最も投資をした選手(ドラフト1巡目)に活躍してほしい(球団の選択は正しかったと立証してほしい)という思いが働き、2巡目以降の選手達よりも、多くの投資を続け、結果として損失を被った事例が紹介されている。
銘柄に惚れてナンピンする個人投資家も、ドラフト1巡目選手に期待を寄せる球団も、原発事業を引くに引けなくなった東芝経営陣も皆一緒なわけです。
行動学を少し知ると、少しだけ今回の東芝にも同情の余地があるのかもしれない。

いやないな。